メッセージ。 - 成功体験

# 成功体験

1年ぐらい前、うちの親父と仕事について話していて、彼からこんなことを聞いた。曰く、「古い会社というのはよくできている」と。たとえば、彼のいた会社で20年ほど前、シャープとの取り引き拡大を検討している部署があったという。現在のシャープは、液晶関連デバイスで世界的な企業になっているけど、当時はこれといって特徴のない中小企業の1つに過ぎなかったという。

彼が所属していた会社では、「シャープとの取り引き拡大するため投資を増やす」という話が広がると、大半の人間は「はぁ? シャープ? 大丈夫かいな? まぁほどほどにしとけよ」という反応が普通であったという。そういう彼自身も、シャープのことを大して評価していなかったそうな。

ところが20年たった現在、シャープは押しも押されもせぬ大企業になり、かつての投資は大成功を納め、現在彼の会社へ大きく貢献しているのだとか。彼はこの事例を挙げてこう言った。「会社というのは、そういうものだ」と。つまり、会社の中で進められている案件のうち、シャープ向けの投資の例のように、成功するものはほんの数パーセントしかない。

会社の中で仕事をしている人のうち、大半の人はシャープ向けの投資が成功するなどとは考えていなかったという。そういった大半の人は、それぞれが自ら伸びると信じる分野で頑張って仕事をしていたはずだ。けれども、そういった分野のほとんどは実を結ばず、ほんの一握りの分野や会社への投資だけが、大きな成功を納めたことになる。

彼が言ったのはこういうことだった。要するに、何が成功するかは分からない。でも、だからこそ短期の収益を追い掛けるのではなく、また収益性だけを気に掛けるのでもなく、いろいろな方面で(ときには無駄だとおもえるようなものでも)事業を展開することが重要だと。そうしているうちに、おもわぬところから収益の柱が育っていったりするのだと。

この話を聞いて、ぼくは少し衝撃を受けた。そういう考え方もあるのかと。いや、もちろん、話を聞いてみればそれほど不自然な考えではないし、当然のロジックでさえある。だけど不思議なことに、自分自身のこれまでを振り返って、そのような観点に接することはまったくといってよいほどなかった。これまでぼくは、自分が所属する部署や事業において、黒字が出なかったり、マイナス成長したりすることを、非常に苦しくおもっていた。

そのような部署にいる自分は会社にとってお荷物だろうと考えたし、うまくいかない仕事のやり方や、引いてはそういった仕事のやり方しかさせられないその会社自体に、明るい未来がないのではないかとおもっていた。ぼくが会社員として勤めていた10年の大半は、大かれ少なかれ、そういった苦しみの中にあった。

でも実際振り返ってみると、自分が最初に就職した会社(6年前に辞めた会社)は、今現在もそれなりに営業しているみたいだし、社員数がけっこう増えていたりする。また、昨年辞めた出版社も、それなりに営業を続けている(先日はワールドビジネスサテライトで新しい事業が取り上げられていた)。

そういう意味で、自分が感じていた苦しみや不安は、実際には杞憂で一人相撲だったのかもしれない。あるいは、そんなことなくて、そんな悠長なことを言っていられるのは、彼が言うように「古い会社」だからなのかもしれない。経済が拡大期にあったから、そのようなやり方で成長できたのかもしれない。でもとにかく、そういう仕事のやり方、考え方を普通だとおもっている会社や人がいるのだということに、ぼくは衝撃を受けた。同じ星にある、同じ会社や同じ人間とはおもえないとでもいうような、ちょっとした疑いを持ちさえした。

実際のところ、どうなんだろう。かつてぼくが所属した会社も、明言はされていなかったけど、そういった思考のもとに運営されていたんだろうか。ぼくは下っ端だから分からなかったけど、そうだったんだろうか。なんとなく、そんな感じはしないんだけどな。課長や部長は泥のようにはいつくばって、目先の黒字のために苦労をしていたようにおもったんだけどな。いずれにせよ、よく分からない。ぼくの苦しみはいったいなんだったのか。まだ当分、その答えは分からないのだろう。
2009-05-01 18:33:07 / ふじさわ / Comment: 0 / Trackback: 0

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