メッセージ。 - にゃー

# にゃー

もうかなり昔のことになるけど、初めてカメラを購入して写真を撮ったときの感想は「ふぅん、こんなもんか」だった。意を決して買ったそれなりに高価なカメラであれば「いい写真」が撮れるだろうと購入前は期待したが、そのような期待はまたしても裏切られた。カメラに限らないことだけれども、皆がすごいと誉めそやすような製品を手に入れたとして、それが自分の手元で期待どおりにうまくいったような記憶はほとんどない。端的に言ってぼくの人生は負け続けなのだ。

その話をし始めるとキリがないし詮ないことであるのでここではカメラの話だけを書く。その後思うように撮れないカメラをぼくがどうしたかというと、キッパリ諦めて手放したわけでも猛勉強をして写真道を極めたわけでもなく、なんとなく「うまくなりたいなぁ、なにがいけないんだろうなぁ」と思いながら、たまにカメラを持ち出すだけという典型的な買い物失敗経験を得ただけだった。

その後かなりの時間がたって、そのときのカメラはもう箪笥の奥にしまわれているけれども、ぼくは今でもなんだかんだとカメラで写真を撮り続けている。写真の腕前はちょっと上がり、以前よりは楽しめるようになったかな。「写真が上手くなる本」みたいなのをなんとなく読んだり、レンズを買ってみたり、カメラを買い替えたりしながら、シャッターを切り続けているうちに何年もなんねんも経って、撮れる写真に納得が行く機会が増えてきた(正確には写真が上手になったのか、期待が低くなったのか定かではない)。

出かけるときはいつでもカメラを持ち歩き、気が向いたらシャッターを切る。めったに遠出はしないので、基本的には家の近所の見飽きた町角でばかり写真を撮っている。主な被写体は、たまたま巡り合わせた道端の猫やカラス、そこらへんに落ちている枯葉、冴えない町並に受かぶ雲と空(たいていは電柱や電線がかぶってしまう)、名前を知らない木の枝や実や季節の移り変わりなど。

写真がうまいわけではないし、いい写真が撮れているわけでもないので、人にはお見せしていないしできない。ただ撮って、気が向いたときに自分で見返して、たまに家族に見せるぐらいだ。他人から見ればまったくもって「こんなもんか」と一瞥にも値しないだろう写真たちだから、恥ずかしくてとても人様にはお見せできない。

カメラを買った当初に感じた自分の中の「こんなもんか」という気持ちは半分ぐらい克服できたけれども、人に見せられるようなものにはなかなかならない。まぁ、見せたい気持ちもそんなにないけど。いつもの見知った路地裏を歩いて、目についたなんでもないものを写真に切り取る。そりゃあ「こんなもんか」という写真が撮れるよ。だって、なんでもない人間がなんでもない近所の路地裏でシャッターを切っているんだから。まったくもって、この世界も生きるということも「こんなもんか」である。

普通の人間が普通に生きたら普通の結果しか出力されない。当然だよね。でも、だから、じゃぁ、これからどうするか。とりあえずぼくは、まだこれからも当分はシャッターを切ると思う。というのも、ちょっとは面白いから。人に見せられるようなものじゃないけど、シャッターを切るのも撮れた写真を見返すのも、ちょっと楽しい。「こんなもんか」という世界のなかにも面白いものが見えるときがあるし、なんでもないものが無性に「写真に収めたい」という気持ちにさせることがあるから。

美しいものは当然写真に撮っても美しい。壮大な自然や綺麗なモデルさん、素敵な意匠や特別な場所といった非日常・ハレの世界に遭遇することがあれば、ぼくだって喜んでシャッターを切る。でもそうでない日常・ケの世界もね。なんかいいんだよ。誰からも顧みられることがないけれども、この世界にはとてもたくさんの生き物やオブジェクトがあって、それらすべてがこの瞬間を生きて散っている。

たとえば道に落ちたいちまいの枯葉。普通に考えれば、それは「こんなもん」ですらないだろう。ゴミであり世界にゴマンとある塵芥であり、ほうっておけばどこかへ消えて行ってしまう、何の価値も意味もない存在。だから誰も気にかけない。それはそうだ。ぼくだってそう思う。

だけど、「世界にゴマンとある塵芥であり、ほうっておけばどこかへ消えて行ってしまう、何の価値も意味もない存在」ってぼく自身と何が違うの?なんにも違わない。本人が言うんだから間違いない。だからあの枯葉はぼく自身の行く末を表していると感じるし、ぼく以外のみんなだって、遅かれ早かれどこかへ行ってしまう。だからぼくは、あの一枚の枯葉と、見も知らない人々や世界の未来の姿を重ねずにはいられない。そんなの、写真に撮りたいと思っても仕方ないでしょう?
2023-11-11 23:36:02 / ふじさわ / Comment: 0 / Trackback: 0

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